ボルドーで生ガキと貴腐系甘口白ワインの絶妙マリアージュを経験してからふた月近く経った11月のある日、ボルドーへも同行したカメラマンK君の自宅で「カキとソーテルヌの会」を開催することになった。おりしもわが故郷・山陰からは松葉ガニ漁が解禁になったとの報が。ならばいっそのことと趣旨を拡大し、「カキとソーテルヌ、蟹と○○ワインの会」にしようということになった。カキはK君が北海道・厚岸から取り寄せることになった。蟹はセコガニ(松葉ガニのメス)。僕の母が「その筋」に頼んで兵庫県から直送してくれる。当日の参加者は6人。
あとはワインだ。ソーテルヌはK君がボルドーから持ち帰ったレ・ランパール・デ・バストー2005がある。会の2日前、僕はワインショップに出かけ、ロゼのカバ(マス・デ・モニストロル2005)、ヴィエーユ・ヴィーニュのシャブリ(ドメーヌ・ド・ヴォルー2002)、アルザスの白(マルク・テンペ アリアンス)の3本を購入。当日はうちから赤ワインを2本(イゲルエラ・ロブレ2008とイル・ポッジオーネ ブルネッロ・ディ・モンタルチーノ1995)持ち出した。これで6人に対してロゼ泡1+辛口白2+甘口白1+赤2=6本。われながら頼もしきラインナップ。
当日、K君宅に着くと、すでに男子2名が片手に軍手、もう片方の手に金ベラという武装で殻付きカキと格闘していた。発泡スチロールのトロ箱を開けてセコガニを披露するとドッと歓声がわく。厚岸産のカキはクリーミーなタイプ。ボルドーのミネラリーなものとは趣が異なるが、旨さでは厚岸に軍配が上がるだろう。ロゼ泡で乾杯するが早いか、もうみんなカキに食らいついている。慌ててシャブリを抜栓。最近厳めしい感じのシャブリばかり飲んでいたので、今日の古木ものはずいぶん寛容に感じる。シャブリの本領かといえば微妙なワインだが、カキがクリーミーだったので、悪い組み合わせではなかった。続いてシャブリの続きにセコガニ(塩ゆでされている)をぶつける。外子、内子、アシ、抱き身と順に食べるのに一同忙しく、ワインを賞味するいとまがない。機を見てマルク・テンペを開けてみんなのグラスに注ぐ。華やかなアロマが立って、みんなの蟹を解体する手が止まる。マリアージュ的にもアルザスと蟹は正解であった。蟹がきれいに片づけられると再び残りのカキがこじ開けられる。いよいよ、本日のメインイベント、生ガキ&ソーテルヌである。旅で出会った恋は実らないというのが定説。ボルドーの思い出ははたして東京でも魔力を持ち続けることができるのか? その答えは「Oui(Yes)」だった。
毎年秋から冬にかけていったいいくつのカキを食べるだろう? 生ガキ、フライ、鍋を合わせると200個くらいは行くだろう。甘口白ワインとのマリアージュを覚えて、この冬のオイスター・ライフはますます充実しそうである。