2009年7月24日金曜日

日食と革命

きのうの皆既日食は、できたら奄美で見たいと思っていた。奄美には旧知のキャンプ場があり、友もいて、現地にさえたどり着ければ困ることはないと思ったのだ。しかし、2カ月くらい前から頑張ったが飛行機も船も取れない。次第に前後の時期に海外出張が入るなど状況的にも難しくなり、やむなく東京(うち)で見物することになった。東京は終始曇りだったが、じつは時折薄雲の彼方に太陽の姿が見て取れたのだ。マンションの屋上(5階の高さ)から周囲を見ると、いやにしんとして、家々のテレビアンテナのひとつひとつに不穏な気配を漂わせて静かにカラスたちが羽根を畳んでいた。七部方欠けた太陽は半月のそれに似て、でも非なるもので、太めのクロワッサンのようだった。もう一度、周囲を見回したが、僕と連れ合いの他に見る人もなし。この瞬間、太陽が欠けていくという一大事を見ずして、なにが人生と言えるのだろう? 日食を見るよりも大事な仕事っていったいなんだ?

そんな狂騒的日食の日から1日。夜、僕は出発まであと1週間を切ったキューバ取材のために資料本を読みながらワインを飲んでいる。少し残っていたイタリアの微発泡を飲みきってしまい、さてどうしたものかとキッチンを見回して目に留まったのが4日ほど前から冷やしつつ飲んでいたモレッリーノ・ディ・スカンサーノ ロッジアーノ2007。南トスカーナのモレッリーノ・ディ・スカンサーノは最近になってDOCGに昇格したとのこと。イタリアの原産地呼称もどんどん変わっており、ついていくのがたいへんだ。さて、このワイン、さっきも述べたように抜栓したのは4日ほど前。最初は冷蔵庫に入れていたが、昨日今日は室温にてほったらかし状態。コルクを引き抜き匂いを嗅ぐと、案の定、エコノミークラスで飲まされるワインのような香りがする。無理もないし代案もないと諦めてグラスに注ぎ、チェ・ゲバラの本を読みながら飲み出すと、これが意外とイケるのだ。ぬるさに耐える熟れた果実、ひとつも崩れていないボディ&バランス。このワインみたいな中年女がいたら、少々小じわが目立っても、メロメロだろう。ここはイタリアワインの底力に感嘆すべきか、はたまたロマンティックにこれは日食の為したマジックだと断じるべきか、はて? ワイン革命の勝利を! さもなくば死を!!

2009年7月15日水曜日

驚きの生命力


梅雨が明け夏来たりなば喉が渇く。されど、しばらく留守にしていたものだからワインのストックがない。やむなく、2週間くらい前に開けて半分くらい飲み、そのまま栓をして冷蔵庫に入れてあった白ワイン、ドメーヌ・ドゥ・ポッシブルのクール・トゥジュールを冷蔵庫から取りだし、恐る恐る匂いを嗅いでみる。意外にも良い香りがする。グラスに注いで飲んでみてもその好印象は変わらない。もともとこのワイン、友人とのワイン会に持ち込むワインを選ぶべく出かけたワインショップで目に留まり、「自然派」「澱をそのままに瓶詰め」「名前は“放っておけ”という意味」などの惹句に惹かれて買ったもの。うちにもって帰ると、少しボトルの口から液漏れをしており、それもあってワイン会には別のワインを持っていったので、このワインは家に残ったのだ。ノルマンディへの旅の前夜、開けてみると、ぬか床のような匂いがする。味までもぬかなのだが、別に不快ではない。むしろ飲むほどにクセになる。面白いと思ったが、旅の直前にてやむなく半量を残し、きっと留守中に家人が残りを飲んでくれるだろうと思っていたら、あに図らんや、そのまま残っていたのであった。で、2週間経った今、ぬか臭は消失、替わりに上品なフルーツがまだいきいきとしている。この生命力はいったいなんだろう? ビオの為せる業か、はたまた当初液漏れしていたアクシデント(酸化)が奇跡の作用をもたらしたのか? こういうことがあると、自分がたまにシッタカぶって書いたり語ったりしているワイン常識の足もとがすくわれるようで、それが口惜しいかというと、むしろ逆に微笑ましいのである。

2009年7月14日火曜日

ノルマンディ報告




7/5〜7/13までフランス・ノルマンディに行ってきた。某女性誌の仕事で、前半のパリ、ジヴェルニー(モネの家と睡蓮の池)、ルーアン(モネの描いたノートルダム大聖堂)までは女優のNさんとその夫でミュージシャンのSさんが同行。後半は、エトルタ(奇岩の海岸)、ルアーブル(モネ「印象、日の出」)、オンフルール、ドーヴィル(映画『男と女』)などを巡った。全体のテーマは印象派と庭園。ノルマンディは地理的にぶどう栽培の北限を越えているから今回は地ワインは無し。その代わりにシードル、カルヴァドスといったりんごの酒があって、そちらの造り手は取材した。シードルは小粒で酸味の強いりんごから造る発泡酒。収穫は木からではなく、必ず果実が熟して落ちてから拾うのだという。シードルを蒸留しオーク樽で寝かせて造るのがカルヴァドス。そしてもうひとつ今回の発見は、シードルとカルヴァドスの中間的存在と言えるポモ。ポモは熟成期間の短い若いカルヴァドス1にりんごジュース2を加え、それを1年半程度樽で熟成したもので、アルコール度数は17程度(カルヴァドスとシードルを混ぜたものという説明があるが、それはウソらしい)。こいつを少し冷やして食前酒とし、食中にはシードルを飲み、食後にカルヴァドスというのがノルマンディのやり方である。沿岸で獲れる牡蠣とポモやシードルはなかなか相性がよかった。牡蠣のほか、イチョウガニ、ムール貝、タラ、スズキ等々の魚介類、牛肉、羊肉、鴨、チーズ(カマンベールはノルマンディ内陸部の村の名前)など食材は豊かで、レストランの料理法としてシードル煮込みやカルヴァドスのソースというのが目立った。