2010年5月24日月曜日

ベネンシア特訓






 スペイン、サンルーカル・バラメダのシェリー、パストラナを飲んだ。ジプシー女のラベルで知らせるラ・ヒターナのボデガス・イダルゴが単一畑のぶどうからつくる意欲作だ。フロール(産膜酵母)由来の古漬けのような風味がたまらない。
 飲みながら3年前の取材旅行を思い出す。
 ボデガス・イダルゴを取材で訪ねた日は週末で、夕方で、われわれがラストの客だった。案内してくれた片言の日本語をあやつる男は、ざっと施設内を案内し終わると、ソレラ(樽を3段、4段に積み上げて熟成させるシェリー独自の製法)の酒庫へとわれわれを再びいざないベネンシア(シェリーを樽からグラスに注ぐ長柄杓)の振り方を教えてやろうという。1メートルほどの長い柄の先に小さなグラス状のカップが付いたベネンシアを振って小さなコピータ(シェリー用の小グラス)に注ぐのは、想像以上に難しく、せっかくのシェリーの大半を床にこぼしてしまう。売り物の酒を無駄にしては申し訳ないから、下手も懸命に努力して巧くやろうとする。ベネンシアからジョーッと注がれたシェリーは適度に空気を含み、酒精が目覚めて美味くなる。こちらは下手が3名、案内人も実演する。注がれたシェリーは回しのみする。
 ベネンシアの特訓を重ねるうちにわれわれの飲む量もどんどん増えていく。酒庫の外で夏の夕日がどんどん傾いていく。教わる方も、教える方もへべれけに酔っぱらう。いつしか取材も特訓も忘れて、ただの酒盛りになる。ますます日は傾く……あんなに美味いシェリーはあれ以来、飲んだことがない。

※写真は、タバンコと呼ばれる樽出しシェリーのバル。酒庫で腕前を披露するベネンシアドール。サンルーカル・バラメダの海沿いのレストランで食べた料理。ボデガス・イダルゴのパティオ。ラ・ヒターナのラベルになったジプシー女の絵。