2010年1月18日月曜日

私には夢がある



年末はここ10年ほど続けてバリ島で過ごしている。去年の年末も23日に日本を発ち、30日に戻ってくるまで向こうで過ごした……などと言うと優雅に聞こえるかもしれないが、実際は正反対である。なるべく無駄なカネを使いたくないからバリに逃避しているのだ。仕事柄海外に出向くことが多いので、毎年ビジネスクラスでバリを往復できるくらいはマイレージがたまる。燃油代その他はかかるがアシ代はタダ同然といっていい。現地ではたいてい旅程の半分をウブドゥ(山の中の芸術家村)で過ごし、残りの半分をスミニャック(海沿いの商業&観光地区)で過ごすのだが、前半のホテルは1泊35ドル(朝食付き、プール有り、ベッドはキングサイズ)。後半は友人の家に厄介になるので宿代はゼロ。食事はローカルの連中と同じものを食べていれば300円でお釣りがくる。街場の外国人向けレストランで豪勢に食べても5000円はいかない。東京で年末の日々を過ごし、やれ忘年会だ、やれクリスマスパーティだと、カネを垂れ流すことを思えば、よほど倹約でき、なおかつ有意義といえるだろう。それでクセになって10年も続いているのだ。滞在中とくに観光的なことはしない。日本ではなかなか読めないような分厚い本を読み、プールで泳ぎ、決まったレストランやカフェに出かけ、海側ではサーフィンもときどき。バカンスとはもともと「空っぽ」の意味。きっとこれでいいのだ。が、しかし……

ひとつだけ、バリ島ライフに不満があるとしたら、ワインである。

10年前に比べると、ワインが飲める店やワインを扱う店の数も、手に入るワインの銘柄も「爆発的に」増えたと言っていいだろう。10年前は地元産のハッテンワインか豪州のジェイコブス・クリークのみといった調子だった。それが今日では、レストランでボトルを頼めば、ちゃんとホストテイスティングもやらせてくれる(ワインリストが存在する時点で過去の状況とは比べようもない。僕が通いつめているウブドゥのラマックという店のワインリストには赤白泡で50銘柄くらいになるリストがある)。しかし、一言で言うなら、駄ワインを劣悪な状態で出すくせに割高なのである(海側に最近できたフランス系スーパーマーケット、カルフールで友人宅に持っていくチリワインを2本買ったら、日本の市場価格で3500円程度で済むものが7000円以上になった)。

いっぽうでは僕も、仕方ないよなあと思っているのだ。高温多湿のバリはもともとワインの保存には適さない。飲む習慣のない人びとがサービスするのだから、扱いも形式的なものになる。価格が割高なのは酒税の関係もあるだろう。需要と供給のバランスを考えても良いワインを安く売ることは難しそうだ。でもなあ、ともう一方の僕はやはり残念でならないのだ。バリの気候、バリのスパイシーでハーヴァルな料理、そしてなによりもバリにいる気分にぴったりのワインがきっとあるはず。すぐに思いつくのは、柑橘系の香りの利いたスパークリングやトロピカルフルーツの香りのするやや濃いめの白。ロゼにだってきっとチャンスがあるだろう。赤だって飲み方によってはいけるかもしれない——。

希望を捨てないで、僕は見守りたいと思う。1963年に行われたマーティン・ルーサー・キングの有名な「私には夢がある」の演説が40年余りの後、オバマ大統領誕生で現実になったように(という喩えはいささかオーバーかもしれないが)、きっとその日が来ると僕は信じている。バリで、おいしいワインが、いい状態で、そこそこの値段で飲める日が!

※上の写真は、ウブドゥのラマック(左)とバリ島の伝統料理バビグリン(右)。