2009年2月27日金曜日

樽香と塩ラーメン

某女性誌のためのワインリスト作成で今日も日が暮れる。価格の制限のあるなか、産地、品種をバランス良く揃えるのはなかなかに至難である。

以前にオファーのあったスペイン・ムルシア地方のワイナリー取材の件、媒体は当初狙っていた2媒体(=カメラマン同行)ではなくひとつのみだが行かせてもらうことにする。いまはひとつでも多くの産地訪問を経験しておきたい。

夜、豪州のケイヴス・ロード シャルドネ2005を抜栓。一昨日開けたチリのカルメン ソーヴィニヨン・ブランと飲み比べる。シャルドネはいきなり樽香が鼻につくが総じて悪くない。カルメンは初日の初々しさはなりを潜め、ひねた別の味わいを見せた。この飲み比べでひらめいたことがひとつ。かねがね、新世界の樽のかかったシャルドネには違和感があったが、今夜の飲み比べで、それは昨今の塩ラーメンにおけるあっさりとこってりの間に横たわる深い溝と相通じることだと悟った。塩ラーメンと聞いたとき、年齢のせいか、僕が連想するのはあっさりとして繊細な味わいのスープだ。しかるに、この頃流行りの、若い連中がつくる塩ラーメンはこれでもかというほどダシのきいた脂ギトギトのこってり系。それを現代風と呼ぶのなら老兵は去るべしだ。樽を利かせたシャルドネこそはまさにこのこってり系塩ラーメンだと思うのだがいかがだろう? 同じ樽をかけたシャルドネでも、先日の試飲会で飲んだブルゴーニュのそれのように、バター香という魅力として付加されるものもあるのだ。対して新世界の樽香は本当のダシの旨味を無視した安易な鰹節粉末の出す味わいの如し。
ケイヴス・ロードを悪く言っているのではない。1000円台前半の価格を考慮すれば、これはとても良くできたワイン。ことに晩飯の残りの切り干し大根と鶏とヒジキの煮物にはよく合ったのだ。

白比較の後、昨日開けたグレヨン・カオール2006の2日目を楽しむ。ボルドー右岸に比肩するふっくらとしたエレガンス。この1280円は大発見である。

ワイン本の原稿に何日かぶりに取りかかる。林立飲みに必要なグラスとデキャンタのところ。実践こそが今回の本の肝であると思うからこそ肩に力が入る。

2009年2月26日木曜日

爆弾以上のエロ!

一昨日の話。六本木のホテルでフランス食品振興会主催のブルゴーニュ試飲会。白はほどほどにして赤を中心に攻める。まず突出していると感じたのはドメーヌ・アルベール・モロ。ボーヌ1級の畑違いを4種類飲んだがいずれもフルーツ爆弾。それを凌ぐ感動を覚えたのがドメーヌ・トープノ=メルム。こちらは肉欲を刺激。ジュヴレ・シャンベルタン、シャンボール・ミュジニー、モレ・サン・ドニ。装いは異なるが衣の下の肉体のエロチシズムは同じという感じ。廉価(2000円台)のパストゥーグランでさえもムラムラ……。
試飲は例によって実飲に転じ、鼻の奥に樽香を感じながら練馬へ移動。練馬文化センターで立川談志を見る。前回見たときよりも状態はよさそうだったがまだ本格的な演目はむずかしそう。だが小話と簡単な古典で充分に魅せるのはさすがホンモノである。
練馬の帰りに早稲田に寄り、スペインバル・ノストスに顔を出す。客はいつもの早稲田の先生のみ。白ワインを飲み、カラスミを食う。店主夫妻と互いの近況を語り合う。早稲田の後さらに渋谷に寄り寿司を食ってビールを飲む。マグロとツブガイが旨い。平日だというのにこんな呑気な過ごし方でいいのかと少しだけ思う。
深夜家に帰っても体のなかからピノノワールがにじみ出てくる感じがした。談志もスペインワインもツブガイも通り越してなおも匂い立つエロチシズムよ!

2009年2月20日金曜日

こういう夜があるからワインは……

夜から久しぶりに雨が降って、それに合わせるように気分もブルーになった。このブルーの原因は何かと探れば、これといった大きなものなないのだが、小さな不愉快の集積といったところか。こんな夜はワインにたのんで元気を取り戻してから床に就きたい。きょうは懸案の某女性誌ワイン特集のリサーチ(試飲)用にネットで3本を注文したほか、パーティで3本、信濃屋で3本のワインを買った。そのうちの1本、サンコムのリトル・ジェームズ・バスケット・プレス レッドを抜栓。グルナッシュ100。ノンヴィンテージだが2003のぶどうだけで造られているらしい。ジゴンダスの名手と言われるオーナーがわが息子のためにつくったエチケットというだけのことはあって、愉快なイラスト6点が表を飾るボトルはとても愛らしい。開けてすぐにラズベリー、ブラックベリー、バニラに丁字。色も「赤ワイン色」といいたくなるようなてらいのない美しい赤紫。パーカーが89点を付けたというが、なるほどわかりやすくて、果実味といい凝縮感といいPPが高くなる要素が揃っている。たくましくはないが元気で、無垢な少年のよう。知らぬ間に機嫌がよくなっている自分に気づく。こういう夜があるからワインは止められないのだ。

2009年2月19日木曜日

黒と茶、それぞれの道行き

某女性誌ワイン特集の件で担当者と顔合わせ&打ち合わせ。話すうちに「ワイン民主化」の思いが共通していることがわかり気をよくする。特集でリストにするワインの価格帯はまだ確定しないが、現状を汲むことができそうでひと安心。さっそく渋谷のやまやでリサーチ。カルメン(チリ)のソーヴィニヨン・ブラン・レセルバなど4本を購入。

早稲田でスペイン・バルを営むKクンからメール。安くて旨いスペインワインのリストアップを頼んでいたものの返事。11本の挙げてくれている。持つべきものは友なり。ただ、白がやや手薄だったので、再度補充を頼む。

夜、ル・ジャジャ・ド・ジョーの黒ラベル(シラー、グルナッシュ)と茶ラベル(カリニャン)を試飲→実飲。黒ラベルは開けたてから派手でわかりやすく、後にやや落ち着いた。バニラ、ブルーベリー、プルーン。茶ラベルは開けたては出がらしの中国茶のようだったが、次第に説得力を現してきた。こうなると、青ラベル(カベルネ、メルロ)も飲んでみたいが「一個人」の2000円以下のワイン特集で高評されたせいか売り切れのもよう。

ワイン本の原稿は第2章の肝の部分でやや停滞中。迷いがあって書けぬというわけではないのだが、冴えた頭で集中して書く数時間がなかなか取れないのだ。むぅ。

2009年2月15日日曜日

アルマセニスタの実力

昨日はバー誤解の店主の誘いで川崎市麻生区まで出かけて立川談春の独演会を鑑賞。演目は「素人義太夫」と「三軒長屋」。とくに後者は談春の口が神業のようによく回ってすっかり引き込まれた。前日深夜にDVDで観た東京03のコントと知らず知らずのうちに比較していたが、人を笑わせるテクニック(常套手段)には古今に通じるものが多々あると感じた。

いったん戻って夕食を終えてからバー誤解へ。
アルザスのゲブルツトラミネールに始まり、チリのカベルネ、加州のピノときて、最後はルスタウのアルマセニスタ(分類表記はないがオロロソタイプ)を2杯。シェリーはもうルスタウだけ残してあとは全滅してしまっても僕はかまわない。そう思わせるほどにこの会社のシェリーはどれも出来が良い。だがまあ、そうは言ってもときには育ちの悪そうなマンサニーリャを野卑に飲りたいなんてときもあるんだから、全滅発言はすかさず撤回するとしよう。連れ合いが店主の求めに応じてつくった片口や僕が数年前にメキシコから持ち帰って店主に贈ったルチャのマスクなどの話でカウンターは盛り上がり、自分で設定した門限を90分ほどオーバー。いやはや……

2009年2月14日土曜日

佳きマリアージュは意外なところに

今年も建国記念日を合図に花粉症の症状が無視できぬレベルまで上がってきた。ワインのデリカシーともしばらく疎遠になるのかと思うと悲しい。加湿器、鼻うがい、レンコン、中国鍼治療に加え、今年はバリ島産赤ショウガも用いて防衛するのだが、無駄な抵抗なのは経験上わかっていること。ワインの味がわからなくなるのも困るが、さらに厄介なのは意識が冴えず、読み書きの仕事に差し障りがあることだ。

某女性誌ワイン特集のリストアップを進めるが、僕が得意としている価格帯と微妙にズレがあって思いのほか難航。わずか数百円のズレなのだが。でもまあ、これも未知のワインと出会える好機ととらえ、またリストに向かう。

花粉症を押してワイン探訪は続く。一昨日、信濃屋で買い求めたブルゴーニュ2本を2晩かけて飲み比べ。ドメーヌ・ユドロ・バイエ ブルゴーニュ・パストゥーグラン2006とドメーヌ・マシャール・ドゥ・グラモン ブルゴーニュ・ルージュ ル・シャピトル2006。造り手も土地も品種構成(パストゥーグランにはガメイがブレンドされている)も違う両者の酷似ぶりはどうだ? 時間経過による変化までそっくりとは……。なかなか風味が上がってこないのにじれて、半ば自棄になって乾燥イチジクをホワイトチョコでコートしたものを口に放り込みワインを飲んだら、これがじつに良く合って、ピノのイチゴ風味が格段に増すのだった。佳きマリアージュは意外なところに潜んでいる。

2009年2月12日木曜日

休日にワイン代を稼ぐひとつの方法

昨日の建国記念日、朝からフリマに参戦。生まれて初めての経験だったが、世相が見え、人が見え、おのれの意外な一面も見えて面白い。路上に腰を下ろした姿勢から見上げる風景も新鮮。出たとこ勝負の感覚は旅のそれに近い。40ほどのアイテムが飛ぶように売れて約8000円の売り上げ。利益は半分くらいだが、ワイン代としては申し分ない。「要らないモノは売れるモノ」を痛感。早くも次回の参戦に思いを馳せる。

夜、サッカーワールドカップ最終予選の日本vs豪州戦をTVで観た後、スノークォルミー・シャルドネ2007を少しだけ冷やしてから抜栓。コロンビア・ヴァレー。芳醇で人懐っこい。加州のワインにありがちな甘ったるさがこれにはないのがいい。10%だけブレンドされているというヴィオニエも効いている。ワシントン州のワインはどれもこれもリズナブルで旨く期待を裏切らないなあ。シアトルの旧友に久しぶりにメールでもしてみようか。

2009年2月10日火曜日

渡りに舟、ワインにトルコ丼

昨夜はなんの祝いでもないのに、秘蔵のクロ・ピュイ・アルノー2004を抜栓。2年前の7月、ボルドー取材の折りにヴィノテークで買って別送したものだが、あんまりに旨くて、思わず仕事部屋のmacへ走りネットで追加注文(2005しかなかったが、むしろ望むところ)。以前は3000円台だったと記憶するが2005は4000円台の後半。いやはや……。飲みごろといえばそうかもしれないが、去年の夏も猛暑の部屋にほったらかしだったのに、開けてすぐに立ち上るうっとりするような芳香はどうだ? しばらくワインだけで楽しんだ後、前日の残りのクミンとナツメグで風味を付けた合挽ともやしの炒め物に玄米&押し麦を混ぜたトルコ風丼のようなものを食べながら飲んだが、これも良く合ってまたもやうっとり。

某女性誌編集部からワイン特集の仕事の依頼。僕の役目はカジュアルワインのリスト出しのようだ。ちょうど奮闘中のワイン本のためにもリストアップが必要だったから渡りに舟である。

オバマ大統領の演説に関する本の原稿をお願いするべく、T外語大学教授のT女史にメール。うまく企画成立となればめでたいのだが。ワインだけじゃ食えないものなあ。

2009年2月9日月曜日

加速のち失速

朝起きて携帯の着歴を見ると珍しく老父からの電話。こちらからかけてみると大した用でもなかったが、それが却って妙に気にかかり、なんだかわが精神に作用したらしく、午後からは久しぶりにワイン本の原稿が進んだ。なんだっていいのだ、燃料になるものはなんでも燃やして書いていかなくては。ようやく第1章の終わりが見えてきたのだが、上手い終わり方が思い付かず失速。ここは焦らず、他所を攻めてからまた舞い戻るとするか。

昨夜は前夜開けたトリカスタンの残りを飲む前にシャトー・メルシャン 甲州グリ・ド・グリ2007を抜栓。ピーチイエローがかった色合い、ふくよかな香り、しっかりとした飲み応え、軽い苦みをともなった大人なアフター、すべてがすばらしい。ここまでグッときた国産ワインは初めてだ。ブリの刺身、トコブシ煮、牡蠣フライと3つのつまみにぶつけてみたが、どれにもそこそこ対応。とくにブリとの相性がいい。醤油やワサビも含めて合うのだから、これなら甲州が寿司に合うという近ごろよく耳にする定説も頷ける。食後、トリカスタン(前日よりもクセが抜けて果実味優勢)と甲州を行きつ戻りつしながら飲む。互いに照らし合って、これまた楽しい!

2009年2月8日日曜日

ラーメンとワインの、無理という道理

表参道のGAPを覗いたあと、滅多に行かない表参道ヒルズを冷やかしに。
ラーメンの「ちゃぶ屋」が出店していたので、話の種に入ってみることに。ラーメン屋といっても、そこはコースメニューはあるわ、前菜もデザートもある。ワインリストは自然派ばかり15種類ほども揃えている。しかもすべてグラスでもオーケー。
連れは白、僕はロゼを注文。前菜に天元豚のスモークと蒸し餃子サラダ。と、ここまでは良かったのだ。ワイン自体はどちらもおいしかった、前菜もまあ健闘していたといえるだろう。ではあるのだが、隣の席で客がズズズズズと麺をすすっているところでワイングラスを傾けるのはやはり違和感が大きすぎる。ワインはもっと気取って……などと言いたいのではないのだ。ただ、やはり世の中にはマッチングというものがあるだろう。ラーメンにはラーメン的な環境、しつらいというものがある。ワインにもワインなりのそれがあるのだ。さらに言えば、ラーメンというのはひとたび卓に登場したらばすぐに箸を付け、そのまま一気に食い通さねばならないものだろう。その合間にワインというのがいかにも無理なのだ。それが道理というものだ。

夜、M・シャプティエのコトー・デュ・トリカスタン2006を開ける。いきなり蜜と金属の匂い。そこから、鶏肝のワイン煮→ナマコ→ムスクときて、だいぶんあとになってようやく赤い果実とハイビスカスの花が上がってきた。自然派のなせるマジックか。じつにおもろいワインなり。トリカスタンがどこのアペラシオンかも知らずに開けたが、あとで調べてローヌ(南部の北の方)だとわかってみると、たしかに「らしさ」があるな、と、これは負け惜しみ。

2009年2月6日金曜日

ムルシアってどこやねん?

スペインのマイナーな産地、ムルシアのプレスツアーの誘いが来た。が、条件が悪く参加は難しそう。いまはどこでも行っておきたいところなのだが。調べてみると、ヘクラやカスターニョの産地で知らない仲じゃない。

ワイン本の執筆、ここ数日は97年に行ったイタリア取材とその後のバーAZでのエピソードを書いている。久しぶりに当時の「ペン」を読み直し、過ぎた時間に物を思う……とか言ってないで、もう少し原稿のスピードを上げなくては。

バロン・フィリップのPRを手がけることになったH社のSさん、Yさんと白金のモレスクで会食。シャンパーニュ、アルザスのリースリング、ローヌの赤とすべてグラスで。デザートに合わせるのにバニュルスはないかと訊いたら、なくて、代わりになにやら南仏の遅摘み甘口を飲む。話が弾み4時間くらいいたか? モーターリゼーション雑誌編集長のSさん、カメラマンのYさんらと立て続けに遭遇。流行りの店は狭い! 

2009年2月3日火曜日

草分け的重鎮の言葉に励まされる

「ワインは人生を楽しくするものです。日本では知識や情報にとらわれて難しく考えすぎ。まるで『ワイン道』。直感で『好き、おいしい』と感じるのが一番です」(2/3朝日新聞朝刊より抜粋)ワインジャーナリストの草分け、有坂芙美子さんの言葉に励まされる。彼女が40年前にワインと出会ったのがナパだったことも、休眠状態だったコマンドリー・ド・ボルドーの活動を再開させて地区代表になったという話にも、自分との共通点を見つけて勝手に追い風を感じる。

2009年2月2日月曜日

甘口オールスターズ

昨夜は今年になって初めていつもの原宿のバー誤解へ。零時半頃入店したが客は僕と連れの2人のみ。1月に結局一度も行かなかったのは途中に店主が体調を崩していたこともあるが、異例の事態である。マルクテンペのピノから飲み始めた。店主がドイツのアイスワインを注いでくれたから、バニュルスと飲み比べてみようと思い、「ある?」と訊ねると、いきなり店主のスイッチが入ったらしく、バニュルス、カレラの甘口、ソーテルヌ、ペドロヒメネス、カナダのリンゴのアイスワイン、僕が以前に持ち込んだマデイラと「甘口オールスターズ」がずらっとカウンターに並んでしまった。店主に注がれるままにストローグラスで少量ずつ味見。甘口にもそれぞれに個性というか「立場」のようなものがあって楽しい。やはり家で飲むのはケ、店で飲むのはハレだなと再認識。最後はシェリー樽フィニッシュの国産シングルモルト、イチロー。完璧。

ワイン本の原稿は、20年くらい前のエピソード(「ワインには2種類しかないんだよ」)を書いた。P.G.ハマトンの引用が効いているか、いささか不安。いまのところアタマから順番に書いているが、なんとなく書くべき文体や方向性が見えてきたので、これからは思いついた部分から少しでも書いていけるように、ファイルを分けることにした。巻末に載っけるつもりのワインリストも随時進行する。