2010年10月30日土曜日

やがて開いて大輪の花に?

 ボルドー、ポムロールのシャトー・ヴレ・クロワ・ド・ゲ2007。5年先に開けてもよさそうなこの銘醸地のワインを「幼女殺し」の罪に問われるのを覚悟でその夜開けたのにはわけがあった。このシャトーを取材で訪ねたのは去年の秋、収穫まであと1週間という時期だった
 魔法使いサリーのパパが出てきそうな城館で僕を迎えてくれたのは、アリンヌとポールのゴールドシュミッツ夫妻。マシンガンのごとき勢いでセールストークをする妻と、いかにも育ちのよさそうな柔和な表情で相づちを打つ夫という図式。聞けば、3つの銘柄をもつこのシャトーはつい最近アリンヌの代に相続されたばかり。ワイン造りの歴史は長いが、近年は某超有名高級銘柄とセットで「抱き合わせ販売」されるという不名誉な立場に甘んじており、今回の相続時に家族内から「もう手放してはどうか?」という意見も出ていたのだった。不名誉な状態のまま、やすやすと家業を手放すわけにはいかない——そう思ったのがアリンヌだった。他人任せだった経営を自分たちの手に取り戻し、畑と醸造設備の改良と館の改修に着手。ペトリュスで醸造アシスタントをしていたヤニック・ライレルをマネジャーに迎えボルドー屈指の人気醸造家ステファン・ドゥルノンクール氏をコンサルタントにつけた。僕がその夜飲もうとしていた2007は、ドゥルノンクール氏が手がけて2年目のヴィンテージということになる。抜栓して30分。大輪の紅い花を思わせる香りと土、そしてスパイス。
 まだ閉じ気味でやや無愛想だったが、ポテンシャルは充分に感じられた。去年の晩秋、ポール氏が日本での新たなインポーターを捜しに来日した。和食の店に連れていくと、箸と箸置きとビールグラスが載った塗りのトレイを見ただけで「トレ・ビアン」を連発。純粋ないい人なのだ。ポール氏の人柄に惚れ、彼のインポーター捜しになんとか力を貸せないかと、僕もいろいろと手を尽くしたが、景気も悪く、なかなか成果が上げられなかった。
 そのポール氏がサンテミリオン・グランクリュのPRのために1年ぶりに来日する。いまだ決まらぬ輸入元を探すミッションも帯びていて、ホテルの部屋を借りて単独の試飲会もするそうだ。ゴールドシュミッツ夫妻とシャトー・ヴレ・クロワ・ド・ゲの命運やいかに?

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