2009年3月2日月曜日

小便から香気

早稲田でスペインバルを営むK夫妻と目黒のキッチンセロへ。僕は4回目、K夫妻は初めてだが、彼らにとっては流行りの同業店をちょっと偵察という気持ちもあっただろう。今夜僕にはひとつ目的があった。この店に置いてあるはずのボー・ペイサージュという日本のワインを飲んでみることだ。グラスワインのリストにお目当ての銘柄の白(シャルドネ)・赤(マスカットベリーA)が1つずつ載っていた。まずシャルドネを注文。大ぶりのグラスに注がれたのは濃い黄色で濁りの残るワイン。抜栓したてだからゆっくり飲んでくれと店の人が言うのだが、飲み始めると最初たくあんのような匂いがあり次第に果実が上がってくるのが面白く、あっという間に飲んでしまった。自然な造りであるらしくアルザスのワインを思い出し、マルク・テンペのロゼを一杯。その後でマスカットベリーAをいったんは注文したが、思い直してボトルでは何があるかと店の人に訊いてみた。もともと飲んでみたかったのはメルロだったのだ。在庫を調べに行った店の人が戻ってきてラ・モンターニュ2005があるという。メルロ100のやつだ。迷わずそれを注文。匂いからして邪気がない。味はといえば、これはぶどうに無理をさせていないなと確信するような健全な味がした。ワインの評判というのはあまりアテにならぬものだが、これは世評通りの傑作である。日本にも飲み手を驚かせる逸品があると予想はしていたのだが、これはまさにそれに値する1本。一同等しく感嘆し、ボトルはすぐ空になり勢いも出て、もう1本何かを開けようとなったが、それにふさわしい1本が見つからない。タウンター席の背後にあるセラーからグラスで飲めるものを仏・伊・西と3種選んで回し飲みするが、ラ・モンターニュに如くものはなかった。
よく飲んだ。こういう夜は就寝後数時間で目が覚めてしまう。寝室を出てトイレのドアを開けて驚いた。個室がフルーツコンポートのような香気に満ちているのだ。就寝前に用を足したときにわが身が発したものらしい。長年ワインを飲んできたが、こういうことは過去数度しかない珍事である。

おとといの土曜は夜、友人Yを呼び、某女性誌のワインリストのためのテイスティングに付き合ってもらった。白4本、赤2本とはかどった。出色は、白ではロージュリル バスティド・ドゥ・ガリーユ ヴィオニエ2007、赤はグリフォネ サンジョヴェーゼ・ディ・ロマーニャ2005、サンタ・デュック エリタージュ(NV)のいずれもよく出来ていた。逆にアルゼンチンのシャルドネが不合格に。某ワイン誌の評を頼りに入手したものだったが、当てが外れた。こういうことがあるからやはり自分で飲んでみなくては、との思いを新たにする。

2009年2月27日金曜日

樽香と塩ラーメン

某女性誌のためのワインリスト作成で今日も日が暮れる。価格の制限のあるなか、産地、品種をバランス良く揃えるのはなかなかに至難である。

以前にオファーのあったスペイン・ムルシア地方のワイナリー取材の件、媒体は当初狙っていた2媒体(=カメラマン同行)ではなくひとつのみだが行かせてもらうことにする。いまはひとつでも多くの産地訪問を経験しておきたい。

夜、豪州のケイヴス・ロード シャルドネ2005を抜栓。一昨日開けたチリのカルメン ソーヴィニヨン・ブランと飲み比べる。シャルドネはいきなり樽香が鼻につくが総じて悪くない。カルメンは初日の初々しさはなりを潜め、ひねた別の味わいを見せた。この飲み比べでひらめいたことがひとつ。かねがね、新世界の樽のかかったシャルドネには違和感があったが、今夜の飲み比べで、それは昨今の塩ラーメンにおけるあっさりとこってりの間に横たわる深い溝と相通じることだと悟った。塩ラーメンと聞いたとき、年齢のせいか、僕が連想するのはあっさりとして繊細な味わいのスープだ。しかるに、この頃流行りの、若い連中がつくる塩ラーメンはこれでもかというほどダシのきいた脂ギトギトのこってり系。それを現代風と呼ぶのなら老兵は去るべしだ。樽を利かせたシャルドネこそはまさにこのこってり系塩ラーメンだと思うのだがいかがだろう? 同じ樽をかけたシャルドネでも、先日の試飲会で飲んだブルゴーニュのそれのように、バター香という魅力として付加されるものもあるのだ。対して新世界の樽香は本当のダシの旨味を無視した安易な鰹節粉末の出す味わいの如し。
ケイヴス・ロードを悪く言っているのではない。1000円台前半の価格を考慮すれば、これはとても良くできたワイン。ことに晩飯の残りの切り干し大根と鶏とヒジキの煮物にはよく合ったのだ。

白比較の後、昨日開けたグレヨン・カオール2006の2日目を楽しむ。ボルドー右岸に比肩するふっくらとしたエレガンス。この1280円は大発見である。

ワイン本の原稿に何日かぶりに取りかかる。林立飲みに必要なグラスとデキャンタのところ。実践こそが今回の本の肝であると思うからこそ肩に力が入る。

2009年2月26日木曜日

爆弾以上のエロ!

一昨日の話。六本木のホテルでフランス食品振興会主催のブルゴーニュ試飲会。白はほどほどにして赤を中心に攻める。まず突出していると感じたのはドメーヌ・アルベール・モロ。ボーヌ1級の畑違いを4種類飲んだがいずれもフルーツ爆弾。それを凌ぐ感動を覚えたのがドメーヌ・トープノ=メルム。こちらは肉欲を刺激。ジュヴレ・シャンベルタン、シャンボール・ミュジニー、モレ・サン・ドニ。装いは異なるが衣の下の肉体のエロチシズムは同じという感じ。廉価(2000円台)のパストゥーグランでさえもムラムラ……。
試飲は例によって実飲に転じ、鼻の奥に樽香を感じながら練馬へ移動。練馬文化センターで立川談志を見る。前回見たときよりも状態はよさそうだったがまだ本格的な演目はむずかしそう。だが小話と簡単な古典で充分に魅せるのはさすがホンモノである。
練馬の帰りに早稲田に寄り、スペインバル・ノストスに顔を出す。客はいつもの早稲田の先生のみ。白ワインを飲み、カラスミを食う。店主夫妻と互いの近況を語り合う。早稲田の後さらに渋谷に寄り寿司を食ってビールを飲む。マグロとツブガイが旨い。平日だというのにこんな呑気な過ごし方でいいのかと少しだけ思う。
深夜家に帰っても体のなかからピノノワールがにじみ出てくる感じがした。談志もスペインワインもツブガイも通り越してなおも匂い立つエロチシズムよ!

2009年2月20日金曜日

こういう夜があるからワインは……

夜から久しぶりに雨が降って、それに合わせるように気分もブルーになった。このブルーの原因は何かと探れば、これといった大きなものなないのだが、小さな不愉快の集積といったところか。こんな夜はワインにたのんで元気を取り戻してから床に就きたい。きょうは懸案の某女性誌ワイン特集のリサーチ(試飲)用にネットで3本を注文したほか、パーティで3本、信濃屋で3本のワインを買った。そのうちの1本、サンコムのリトル・ジェームズ・バスケット・プレス レッドを抜栓。グルナッシュ100。ノンヴィンテージだが2003のぶどうだけで造られているらしい。ジゴンダスの名手と言われるオーナーがわが息子のためにつくったエチケットというだけのことはあって、愉快なイラスト6点が表を飾るボトルはとても愛らしい。開けてすぐにラズベリー、ブラックベリー、バニラに丁字。色も「赤ワイン色」といいたくなるようなてらいのない美しい赤紫。パーカーが89点を付けたというが、なるほどわかりやすくて、果実味といい凝縮感といいPPが高くなる要素が揃っている。たくましくはないが元気で、無垢な少年のよう。知らぬ間に機嫌がよくなっている自分に気づく。こういう夜があるからワインは止められないのだ。

2009年2月19日木曜日

黒と茶、それぞれの道行き

某女性誌ワイン特集の件で担当者と顔合わせ&打ち合わせ。話すうちに「ワイン民主化」の思いが共通していることがわかり気をよくする。特集でリストにするワインの価格帯はまだ確定しないが、現状を汲むことができそうでひと安心。さっそく渋谷のやまやでリサーチ。カルメン(チリ)のソーヴィニヨン・ブラン・レセルバなど4本を購入。

早稲田でスペイン・バルを営むKクンからメール。安くて旨いスペインワインのリストアップを頼んでいたものの返事。11本の挙げてくれている。持つべきものは友なり。ただ、白がやや手薄だったので、再度補充を頼む。

夜、ル・ジャジャ・ド・ジョーの黒ラベル(シラー、グルナッシュ)と茶ラベル(カリニャン)を試飲→実飲。黒ラベルは開けたてから派手でわかりやすく、後にやや落ち着いた。バニラ、ブルーベリー、プルーン。茶ラベルは開けたては出がらしの中国茶のようだったが、次第に説得力を現してきた。こうなると、青ラベル(カベルネ、メルロ)も飲んでみたいが「一個人」の2000円以下のワイン特集で高評されたせいか売り切れのもよう。

ワイン本の原稿は第2章の肝の部分でやや停滞中。迷いがあって書けぬというわけではないのだが、冴えた頭で集中して書く数時間がなかなか取れないのだ。むぅ。

2009年2月15日日曜日

アルマセニスタの実力

昨日はバー誤解の店主の誘いで川崎市麻生区まで出かけて立川談春の独演会を鑑賞。演目は「素人義太夫」と「三軒長屋」。とくに後者は談春の口が神業のようによく回ってすっかり引き込まれた。前日深夜にDVDで観た東京03のコントと知らず知らずのうちに比較していたが、人を笑わせるテクニック(常套手段)には古今に通じるものが多々あると感じた。

いったん戻って夕食を終えてからバー誤解へ。
アルザスのゲブルツトラミネールに始まり、チリのカベルネ、加州のピノときて、最後はルスタウのアルマセニスタ(分類表記はないがオロロソタイプ)を2杯。シェリーはもうルスタウだけ残してあとは全滅してしまっても僕はかまわない。そう思わせるほどにこの会社のシェリーはどれも出来が良い。だがまあ、そうは言ってもときには育ちの悪そうなマンサニーリャを野卑に飲りたいなんてときもあるんだから、全滅発言はすかさず撤回するとしよう。連れ合いが店主の求めに応じてつくった片口や僕が数年前にメキシコから持ち帰って店主に贈ったルチャのマスクなどの話でカウンターは盛り上がり、自分で設定した門限を90分ほどオーバー。いやはや……

2009年2月14日土曜日

佳きマリアージュは意外なところに

今年も建国記念日を合図に花粉症の症状が無視できぬレベルまで上がってきた。ワインのデリカシーともしばらく疎遠になるのかと思うと悲しい。加湿器、鼻うがい、レンコン、中国鍼治療に加え、今年はバリ島産赤ショウガも用いて防衛するのだが、無駄な抵抗なのは経験上わかっていること。ワインの味がわからなくなるのも困るが、さらに厄介なのは意識が冴えず、読み書きの仕事に差し障りがあることだ。

某女性誌ワイン特集のリストアップを進めるが、僕が得意としている価格帯と微妙にズレがあって思いのほか難航。わずか数百円のズレなのだが。でもまあ、これも未知のワインと出会える好機ととらえ、またリストに向かう。

花粉症を押してワイン探訪は続く。一昨日、信濃屋で買い求めたブルゴーニュ2本を2晩かけて飲み比べ。ドメーヌ・ユドロ・バイエ ブルゴーニュ・パストゥーグラン2006とドメーヌ・マシャール・ドゥ・グラモン ブルゴーニュ・ルージュ ル・シャピトル2006。造り手も土地も品種構成(パストゥーグランにはガメイがブレンドされている)も違う両者の酷似ぶりはどうだ? 時間経過による変化までそっくりとは……。なかなか風味が上がってこないのにじれて、半ば自棄になって乾燥イチジクをホワイトチョコでコートしたものを口に放り込みワインを飲んだら、これがじつに良く合って、ピノのイチゴ風味が格段に増すのだった。佳きマリアージュは意外なところに潜んでいる。